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2018年2月11日日曜日

読書ノート:真実のビートルズ・サウンド[完全版] 川瀬泰雄

リットーミュージック社。某古本屋チェーンの新春セールで購入。たまたま最近身近で、ある曲がビートルズの誰の曲なのかといった話題が出ていたため、目についた。

川瀬氏は山口百恵さんなど、多数の歌手の音楽プロデュースを担当したそうだ。本書ではビートルズの全楽曲について、プロデューサーの視点からコメントしたり、曲を精密にコピーする際の着目点を詳説している。曲のある部分のギターの弾き方がダウンストロークなのかアップストロークなのかとか、使用しているエレキギターの銘柄が何なのかなど、高度にマニア向きな本だ。

今までビートルズのことは、CDの解説に書いてあること以上の知識はなく、解説本を読んだことはなかったので、今回初めて知る事だらけだった。

ジョン・レノンの名曲「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」が2つのテイクを合わせたものだということも、その接合部が冒頭の Let me take you down 'cause I'm / going to... のスラッシュの辺り、微妙にテンポが遅くなる所だということも初めて知り、新鮮だった。

ほか印象に残ったのは、メンバー間の不和がはっきりしてきた「ホワイトアルバム」収録の際のエピソードで、ポール・マッカートニーの「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」に関するものだ。ジョンはこの曲を毛嫌いしており、完璧主義のポールが試行錯誤を繰り返すセッションに嫌気がさし、怒ってスタジオを飛び出した。ところが数時間後に突如戻り、今となっては有名なイントロのピアノのフレーズを弾いたところ、ポールが感服し、収録に至ったそうだ。

「ジョンとポールとジョージの3人が1本のマイクを囲みバッキング・ボーカルを録るためにヘッドフォンをしたとたんに、過去数週間のいさかいはなんだったのか、というほど一時棚上げになってしまうのだという。バンドを始めた頃の悪ガキに戻り、おどけたり冗談を言い合ったりしていた。ところがヘッドフォンを外したとたん、またお互いを憎み始めたという」p.373

解散をせずに続けていたらどうなっていたのか。あるいは解散後に再結成することがあったらどうなっていただろうか。結構いい曲ができたのではないだろうか。

著者は大体どの時代の曲もいいところを見つけてほめている。私はビートルズは後半のサイケな時代以降が好きで、前半の恋愛の歌などあまり聞く気がしなかったのだが、コーラスの美しさとか、ギターやベースの工夫など、これでもかとばかり説明されると、一度じっくり聞いてみたくなる。それぐらい愛情にあふれた本である。

どうでもいいが、著者の擬音の表現の的確さには驚かされた。ジョージ・ハリスンの「サムシング」イントロのドラムを「♪ダコトドコト」と書かれると、もうそうとしか聞こえない。今まで自分の中では「ドドドドドド」だったんだけど…