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2013年6月28日金曜日

本日の引用:茶の本 岡倉覚三(天心)著

「翻訳は常に叛逆であって、明朝の一作家の言のごとく、よくいったところでただ錦の裏を見るに過ぎぬ。縦横の糸は皆あるが、色彩、意匠の精妙は見られない」岩波文庫版40ページ

にもかかわらず、日本語訳で読んでしまった。古本屋で安かったもので…。いつか原書の「The Book of Tea」も目を通せたらいいな。
本書に関する感想は余りない。茶が道教、禅、生け花と関連していることや芸術に連なる道であることはある程度理解した。この本を読んで反省したのは、ずいぶん長い間、知識を得るための読書に偏りすぎたためか、このような時を超越する内容の本をゆっくり味わいながら読む心構えができなかったことだ。

2013年6月26日水曜日

読書ノート:絶対音感 最相葉月著

小学館文庫版を古本屋で購入。絶対音感とは何かを追究することで、音楽や人間の認知機能の神秘について話が深まっていく。

身近にピアノを習っている人はたくさんいたが、絶対音感があるという人には一人しか会ったことがない。当時は、音の名前やコードがたちどころに分かってすごいなと思うぐらいで深く考えなかったが、本書によると、能力が研ぎすまされている余り、音楽が音楽として楽しめなかったり、楽団や曲により音の高さが微妙に違うと適応するのに苦労したりと、問題に直面するケースが結構あるそうで驚いた。他にも、音楽教育と創造性の関係とか、交響曲の指揮者が音の洪水の中からどのように特定の楽器の音を聞き分け、演奏をまとめあげていくのかなど興味深い話題がいくつもあった。

本筋からやや外れるが、印象に残ったのが「ダイナミックなパターンの中にこそ情報が含まれる」という一節。例えば「aia」という発音の一連の音声を細分化しても「ae」といった混じった音が聞こえるのみで、明確な「a」や「i」の音は聞こえないそうだ。物質もどんどん分割していくと、我々が身近に知っている物質とは異なった姿が現れてくる。素粒子の単位になると具体的な様子を想像することすら難しい。対象を全体で捉えるのか、パーツに分けて考えるのか、思想史上、繰り返し現れるテーマながら、改めて興味深く感じた。

この本のように深く追究していくスタイルっていいな。同じ著者の「青いバラ」(小学館)も読んでみようと思う。いや、やはり同じ著者による星新一の伝記(新潮文庫)を上巻しか読んでないから、そちらが先かな。

2013年6月23日日曜日

維新

維新とは「政権の交代に伴い、政治上の諸制度が全て改革されること」(新明解国語辞典第4版)であり、「改革」がその意味の根幹となる。ところで、明治維新は通常「Meiji Restoration」と英訳される。政治体制の刷新の他に、天皇制への復古(Restoration)という側面があったためである。
「Meiji Restoration」に倣ってか、日本維新の会の英文名称は「Japan Restoration Party」である。日本語に訳し直すと「日本復古の党」などとなり、維新とは程遠い印象だ。まあ共同代表やその他幹部の言動を考えると、これはこれでちょうどいい気もするが…
ただし、日英の名称でちぐはぐになっていることは間違いない。三井住友なのに英文にするとSumitomo Mitsui となる金融機関や建設会社とか、合併してタカラトミーとなった会社が、英文名では Takara のかけらもなく Tomy Co., Ltd. になっていたりするみたいな。

2013年6月22日土曜日

黒田総裁おまけ

いささか旧聞に属するが、世界の大手民間金融機関で構成する国際金融協会(IIF)という団体が、黒田日銀総裁の就任直前の3月初旬に、以下のようなプレスリリースを出した。IIFの発行する月報を紹介するもので、同月のトピックは、世界的に中央銀行が供給する流動性に対する依存度が高いといったものだった。
http://www.iif.com/press/press+414.php

各国の状況について説明があり、日本の部分を見ると、







この間違い、よそでも起こりそうな気が…

2013年6月18日火曜日

黒田日銀総裁の英語

就任直後に異次元緩和を成し遂げた黒田総裁。先月、日銀金融研究所主催の国際会議で、英語で開会の挨拶をした。元々財務省の通貨マフィアで、その後アジア開発銀行の総裁を務めただけあって、英語は堪能だという。原稿も自分で書いたのだろうか。下の原稿通り読み上げたのかは分からないが、気になる点があったのでメモ。

I believe that the global financial community must, in its efforts to rebuild the global financial system, come to terms with two issues: capital controls and financial regulation and supervision.(3ページ、III.の2パラめ)
http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2013/data/ko130529a.pdf

日銀による邦訳は以下の通り。
「国際金融界では、国際金融システムの再建に向けて、資本移動規制と、金融規制・金融機関監督という、2つの課題を検討していく必要があると思います」
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130529a.pdf

「come to terms」は、例えば20年以上前の辞書で恐縮だが Oxford Dictionary of Current English 第2版なら「reconcile oneself to (a difficulty)」と説明があり、困難や不快なことに対し「受け入れる」「折り合いをつける」という意味で、多くの場合、変えることができないことについて使う。つまり、この文脈では不適切。別に「検討」だから機械的に「consider」や「examine」でなければいけないとは思わないが、「tackle」とか「deal with」ぐらいでよかったのでは。

Today, the global economy has not yet completely shook off the effects of the global financial crisis,... (4ページめ、結びの言葉)
shake の過去分詞が shook になってます。読み上げるときに気がついたかもしれませんが。日銀の中の人、総裁の英文原稿も、ネイティブチェックをしっかりお願いいたします。

2013年6月12日水曜日

自虐史観


以前から「自虐史観」は英語でどのように表現するのがいいのか悩んでいたところ、いささか旧聞になるが、先月公表された米国議会調査局の「Japan-U.S. Relations: Issues for Congress」という報告に言及があった。安倍首相を「強硬なナショナリスト」とし、歴史問題が米国の国益を損ねかねない状況に発展する懸念を示した報告である。
http://www.fas.org/sgp/crs/row/RL33436.pdf

この報告の9ページ目に以下の文があった。
Abe's appointment of Shimomura appears to signal his intent to follow through on the LDP's pre-election advocacy of reducing "self-torturing views of history" in education...
「安倍が下村(文部科学相)を起用したのは、教育現場の『自虐史観』を弱めるべきとの自民党の選挙前の主張を実行する意図があるためではないかとみられている」

引用符付きながら、self-torturingという語を使っている。駐日米国大使館や国務省でもこの表現を使っているのだろうか。self tortureが英語圏でどういうイメージなのか、参考のためgoogleで画像検索してみたら、中世の拷問用具(実物を見たければ明治大学の刑事博物館へ)とかインドの荒行とかその他気持ち悪い画像だらけだった。大丈夫だろうか。下のような画像もあったけど。



ちなみに毎日新聞の英文版では「a masochistic view of history」とあった。こちらは画像検索しなくても大体わかります。orz
http://mainichi.jp/english/english/perspectives/news/20121208p2a00m0na004000c.html