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2014年7月24日木曜日

大学改革のヒント

ツイッターの某クラスタで話題になっていた、読売新聞の「大学の実力2013」という調査を基にした論文が示唆深かったので、備忘のため要点をメモしておく。昨今の研究・論文不正により、大学改革の動きが強まるのかもしれないが、その際に改革の方向性を考えるヒントになると思う。

「大学の偏差値と退学率・就職率に関する予備的分析:社会科学系学部のケース」 清水一著
http://www.osaka-ue.ac.jp/keidaigakkai/journal/64_1/

・社会科学系学部のデータを分析した結果、退学率や就職率は偏差値によってかなりの部分が説明される。p.57
・偏差値最下層の大学はマーケットの洗礼を受けており、そのため何らかの努力が行われ、実質就職率などの実績で上位校を逆転している。p.69
・経営の厳しい偏差値39のグループは、学力・意欲の低い学生を教育し、就職させる方法論を身に着けつつあるのかもしれない。一方、偏差値40-49のグループは比較的経営が安定しており、改革の必要性がなく、結果として、学生の学力・意欲が低いまま放置され、卒業・就職が困難になっているのかもしれない。p.69
・大学間の競争は大学の教育の質を高めることを示唆していると考えられる。p.69
・推薦入試・AO入試の比率が高い学部では退学率が高く、こうした選抜方法で意欲や適性の高い学生を入学させることが困難である可能性を示す。p.65

著者は大阪経済大学の講師で、神戸大学で経営学の博士号を取得した方だそうです。
http://www.osaka-ue.ac.jp/education/faculty/keieijoho/kyouin/

2014年7月20日日曜日

元素変換

いささか旧聞ではあるが、4月に日経新聞電子版から、三菱重工が元素変換の基盤技術の開発に成功したとの記事が配信された。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ040JJ_X00C14A4000000/
以下は三菱重工による論文。
https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/421/421050.pdf

この技術は、核反応のように大きなエネルギーかけずに元素を変換するものだそうだ。メカニズムの詳細は不明ながら「新しい元素の収量がナノグラムからマイクログラムへ3桁増えた」という。放射性物質に応用できれば、非放射性物質に変換できるようになるかもしれない。

元素変換は錬金術のようなもので、永久機関と同様、科学的にありえないものとされてきたが、こういう不思議な現象が科学的探究を深める原動力にもなるので、科学者の皆さまにはぜひ頑張っていただきたい。長年否定されてきた「獲得形質(後天的に得た能力や性質)の遺伝」だって、最近になって遺伝しうるという有力な説が出てきており、目が離せない。
http://www.nature.com/neuro/journal/v17/n1/full/nn.3594.html
http://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(11)01341-9

EM菌で放射線物質除去とか癌を治癒、みたいな非科学的なものは適宜排除すればそれでいいんで。最後の錬金術師たるニュートンが放ったようなブレイクスルーが、現代からも出てくるといいですね。

また、原発関連工学屋の方々には、文春新書の「原発安全革命」で提唱されているような安全度の高いトリウム溶融塩炉原発の開発を急いでもらいたい。

2014年7月3日木曜日

読書ノート:震災以降 渋井 哲也、村上 和巳、渡部 真、太田 伸幸 編著

三一書房。新刊で購入。

被災地での略奪行為やレイプなど、新聞やテレビであまり報道されなかった震災の側面に光を当てた「風化する光と影(マイウェイ出版)」の続編。掲載されている数多くのエピソードに、震災や復興の記録を続けていこうという記者の心意気が感じられる。

震災や原発事故のような巨大で刺激の強い出来事が起こると、どうしても物事の複雑な様相には目が向かず、分かりやすい構図に単純化して理解した気になってしまう。本書の記者達は当事者に話をよく聞き、現地での機微をよく伝えている。

例えば、徹底した防災教育により子供の生存率が高くなったという「釜石の奇跡」について取材すると、ある学校の避難行動は、方針が場当たり的で、たまたま最初に避難した所から逃げたところ、僅差で津波を免れたという。児童や生徒に話を聞いても、釜石で生存率が高かったのは「奇跡じゃなくて偶然」という声が多かったそうだ。

また市の防災課の職員から以下のような証言を引き出している。
「釜石市の小中学校では、震災前から津波防災教育をしてきました。こうした軌跡があったから避難ができたのではないか、と新聞社の取材に答えた事があります。もし私の言葉をもとに『釜石の奇跡』という言葉が生まれたのならば『キセキ』違いです」p.130

現地の震災教育から学ぶ点は多いが、当日の避難行動にミスがなかったか、準備に不備がなかったかなど冷静な評価が必要だと指摘している。

本書の巻末には、現地のグルメ情報が載せてある。被災地を何度も訪ね歩いた苦労と、少しでも現地を盛り上げる役に立ちたいという願いが感じられ、頭が下がる思いだ。私も行く機会があれば、試してみよう。