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2013年11月26日火曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究10

p.238 プライベートバンキング PB private banking
前の版にはない、次のような例文が追加された。
「プライベートバンキングは一般には1億円以上の資産のある富裕層が対象とされる。Private banking is said to be targeting for those wealthy people whose assets total more than 100 million yen.」

target は「~をターゲットとする」の意味では「target ~」か「is targeted at ~」という形で用いる。
参考までに研究社の英和活用大辞典(1995年)を見ると「targeted for」の例が載っているが、この for は「~のため」という意味。
「This area has been targeted for development. この地域は開発の目標とされてきた。」

また「more than ~」は「~を越える」という意味。「1億円以上」は1億円を含むので意味が違う。その他細かい変更を加えて、例文を以下のように変えてはどうか。最近は1億もいらないらしいけど。
「プライベートバンキングは、通常金融資産を1億円以上保有する富裕層が対象となる。Private banking usually targets wealthy people with 100 million yen or more in financial assets.」

p.240 金融商品取引法(投資サービス法) Financial Products Transaction Law
正式な名称は「Financial Instruments and Exchange Act」である。
この版の出版のずいぶん前、2006年6月21日付の金融庁の英文発表資料に書いてある。
http://www.fsa.go.jp/en/policy/fiel/20060621.pdf
http://www.fsa.go.jp/en/news/2006.html

同法の全文英訳は以下のページにある。
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?ft=2&re=01&dn=1&yo=%E9%87%91%E8%9E%8D%E5%95%86%E5%93%81&x=0&y=0&ky=&page=1

郵政公社を扱った時にも書いたが、独自の翻訳を正式の英文名称であるかのように表示するのはやめてもらいたい。

生徒にこの辞書を丸暗記させる通訳学校があるようだが、よく内容を確認もせずにこの版を丸暗記させたりしてはいけない。

2013年11月21日木曜日

「寄生獣」祝・映画化

人気漫画「寄生獣」が実写映画化!テレビアニメプロジェクトも始動

Movie Walker 11月20日(水)13時32分配信
1990年から95年まで「月刊アフタヌーン」で連載され、今なお高い人気を誇る岩明均の漫画「寄生獣」が、『ヒミズ』(12)の染谷将太主演で実写映画化。2014年1月から撮影スタートし、2部作で製作されることがわかった。
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131120-00000012-mvwalk-movi


実写化される日が来るとは想像していなかった。見に行くかどうかは分からないけど、わくわくします。


昔、雑誌の懸賞で当てたミギーのフィギュアです。

2013年11月17日日曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究9

p.285 利回り yield
「国債などの債券の場合は表面利子に対する証券価格の割合をさす」とあるが、逆である。「価格に対する利子等の割合」が正しい。前の版の「利回り」の項目には説明がなかったが、誤った説明なら無い方がましだ。

p.287 国債先物 government bond futures
「表面利率6%の10年物国債」としか書いていないが、「を取引対象とする先物商品」などといった説明が続かないと意味が通らない。国債は発行のたびに表面金利などが変化し、これを基にそのつど先物を作ると価格に継続性がなくなるため、表面利率6%の10年債など架空の債券が取引対象として設定されている。

p.287 超長期国債 20-year/30-year government bond
前の版が「超長期国債」の訳語を「20-year government bond」としていたため(それもどうかと思うが)、改訂に当たり新規に発行開始となった30年債を継ぎ足したのだろう。しかし2000年から2008年にかけて発行された15年変動利付国債が抜けているし、現在では40年債も発行されている。海外では100年債が検討対象となり、過去には償還期限のない永久債が発行された例もある。

訳語を superlong government bond などとし「償還までの期間が10年を超える国債」と定義を与えれば、何年債が出ようと関係ない。

p.287 物価連動国債 indexed government bond
inflation-indexed government bond あるいは inflation-linked government bond が正しい。

p.287 電力債 electric power bond
前の版では正しく「electric power company bond」としていたものを、わざわざ間違った言い方に書き直している。

トレンド日米表現辞典第4版の研究8

P.272 総会屋
greenmailer を「村上ファンドの村上世彰元代表等が行ったとされる違法すれすれの行為」としているが、説明になっていない。固有名詞を挙げる前に「企業の株式を、高値で買い取らせることを目的に買い集める敵対的買収を行う者」など端的な定義を示すべき。

p.272 社員持ち株制度 employee ownership program; EOP
間違いではないが、stockを入れてemployee stock ownership program (ESOP)とするのが普通。programの代わりにplanもよく使われる。

p.283 指値 limited order
普通は limit order という。

p.283 成り行き注文 discretionary order; market order;...
discretionary order は一任(取引契約に基づく)売買注文を指す。

Barron's Dictionary of Finance and Investment Terms (Fourth Edition 1995)での定義は以下の通り。
・discretionary order: order to buy a particular stock, bond, or commodity that lets the broker decide when to execute the trade and at what price.
・market order: order to buy or sell a security at the best available price.

p.284 順張り tide-following dealing
普通は tide ではなく trend を使う。

2013年11月16日土曜日

からたちの小径

先日、島倉千代子さんの告別式の様子をテレビで拝見したところ、亡くなる3日前に自宅で収録した「からたちの小径」という曲が流された。

いつもの軽やかな声ではあったが、か細くてビブラートがやさしく、かえって情感が強くこもっているように感じられ、胸が熱くなった。人生最後のレコーディングと覚悟の上である。何を想いながら歌ったのだろう。肉声の力を思い知らされる歌声だった。

肉声と言えば、田中好子さんが2011年4月に亡くなったすぐ後に公開された音声メッセージも忘れ難い。「私も一生懸命病気と闘ってきましたが、もしかすると負けてしまうかもしれません。でもその時は必ず天国で被災された方のお役に立ちたいと思います。」という一節を含んだメッセージである。

この2人ほど見事にはできなくても、死に際し、私もきちんと人生を総括することができるだろうか。せめて身近な者には何らかの形でメッセージを残したいものだ。

改めてお2人のご冥福をお祈りします。

2013年11月13日水曜日

本日の引用:Embracing Defeat John Dower著

「In these circumstances, it was not surprising that a pervasive victim consciousness took root, leading many Japanese to perceive themselves as the greatest sufferers from the recent war. The misery on hand was far more immediate and palpable than accounts of the devastation that the imperial forces had wrecked on strangers in remote lands.」W.W.Norton社 P.119

敗戦直後の苦難の中、国民の間に被害者意識が蔓延する余り、旧日本軍による国外での蛮行に関心が高まらなかったというのは、きっとその通りなのだろう。よそから指摘されると腹が立つけど。

まだ半分も読んでいないが、全体的にフェアな記述が多い。進駐軍と慰安婦・売春婦の関係に象徴的に表れる、占領下における日米間の貧富の差や主従関係に対する国民の複雑な感情も丁寧にすくい取っている。

支配者と被支配者の関係にまつわる性的な含意を説明する以下の文も示唆的で印象深い。

「The enemy was transformed with startling suddeness from a bestial people fit to be annihilated into receptive exotics to be handled and enjoyed. That enjoyment was palpable--the panpan personified this. Japan--only yesterday a menancing, masculine threat--has been transformed, only in the blink of of an eye, into a compliant, feminine body on which the white victors could impose their will.」P.138

東日本大震災以降、日本人がどういう人々なのか、外国からどのように見られているのかが気になり、本書もそうした興味の下で読み始めた。その他に印象に残っているのは渡辺京二氏の「逝きし世の面影」(平凡社ライブラリー)で、江戸時代に頂点を迎えた日本「文明」が失われていく様を明治期前後に訪日した外国人の手記を基に記した本だ。

「逝きし世の面影」についてはまた触れることがあるかもしれない。今後も同様のテーマの本を読んでいきたい。

2013年9月25日水曜日

読書ノート:インド仏教思想史 三枝充悳著

レグルス文庫。大学生の時に一般教養の教科書として新刊で購入。仏教思想の変遷を概観。

先に紹介した「『痴呆老人』は何を見ているか」で仏教用語が出てきたことに刺激を受け、一部しか読んでいなかった本書を引っ張り出し、この度全部読んでみた。しかし固有名詞が頭に入らず、消化不良。宗派や経典も多様で全体像がつかみきれなかった。

そのため印象に残ったのは、インドもギリシアと同様、発達した豊かな社会の中で様々な議論が繰り返されることによって深遠な思想が生まれてきたというような、背景説明みたいなことぐらいだった。

他に目についたのは、全体的に抑えた筆致の中で際立って見える、一部の密教を評した激しい言葉だ。著者の信念を表しているのだろう。

「(宗教は)必ずいったんなんらかの形において否定を通過し、大いなる否定があって、そのうえに肯定を迎えるのでなければならぬ。それを経過することなしに、たんに現実をそのままに、本能の説くまま、欲望の奔るまま、行動している姿は、宗教として堕落したものといわなければならない。」P.236

しかし実際は、多くの宗教が世俗化という形で「堕落」の方向に向かい、それに反発して原点回帰の運動が発生する。本能や欲望を全肯定するほど極端な所まで堕落するとは限らないが、「世俗」⇔「原点」の往復運動を繰り返していくのが宗教の普通の姿ではないだろうか。布教のためには民衆に歩み寄っていく必要があるだろうし、世俗に通じるものがなければ多くの人を引き付けることは難しそうだ。

宗教上の真理を追究していくことは尊いが、世俗化が進んだ宗教に尊さがないわけではないと私は思う。東日本大震災以降、特に強く感じるのだが、宗教は神のためではなく人のために存在し、人がいるからこそ宗教に意義があるのではないだろうか。知り合いの神官は震災以降、毎日被災者のための祈りを欠かさないと言っていた。大変尊い姿勢で感銘を受けたが、こうした姿勢は多くの人の目に触れてこそ、知られてこそ意義が深くなると思う。

仏教の内容についてはあいかわらずよく分からないままなので、今度「つぎはぎ仏教入門」呉智英著(筑摩書房)、「知的唯仏論」宮崎哲弥、呉智英共著(サンガ社)などを読んで足がかりを作りたいと思っている。

2013年9月7日土曜日

読みたい本リスト

「非常民の民俗文化」 赤松啓介著 ちくま学芸文庫
「脳に刻まれたモラルの起源」 金井良太著 岩波科学ライブラリー
「大栗先生の超弦理論入門」  大栗博司著 講談社ブルーバックス
「言語学の教室」 西村義樹著 中公新書
「現代オカルトの根源」 大田俊寛 ちくま新書
「群れは意識を持つ」 郡司ペギオ著 PHPサイエンスワールド新書
「なめらかな社会とその敵」 鈴木健著 勁草書房
「世界文明史の試み」 山崎正和著 中央公論新社
「真珠湾収容所の捕虜たち」 オーテスケーリ著 ちくま学芸文庫
「情報覇権と帝国日本I」 有山輝雄著 吉川弘文館
「万葉秀歌」上下巻 斎藤茂吉著 岩波新書
「人間はどこまで耐えられるのか」 F.アッシュクロフト 河出文庫
「日本の動物観」 石田おさむ著 東京大学出版会
「卒業式の歴史学」 有本真紀著 講談社選書メチエ
「完全なるチェス」 フランクブレイディー著 文芸春秋
「ブレイクブレイド」 吉永裕ノ介著 ほるぷ出版

2013年8月31日土曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究7

P.221 経済財政諮問会議 the Council on Economy and Fiscal Policy
Economy ではなく、Economic が正しい。

P.221 郵政民営化 postal privatization
民営化以前の「日本郵政公社」を「Japan Post Public Corp.」としているが、同公社の英文名は Japan Post だった。

例えば、電電公社(現・NTT)、専売公社(現・日本たばこ)は、それぞれ Nippon Telegraph & Telephone Public Corp.、Japan Tobacco & Salt Public Corp. という名前だった。こうした名称から類推して「公社」=「Public Corp.」と翻訳したのだろう。

しかし執筆当時には現存していた組織なのだから、独自の翻訳ではなく、問い合わせするなどしてきちんと確認した正式名称を載せるべきだった。

この項目には持ち株会社の「日本郵政」や郵便、郵貯など各子会社の英文名も書いてあるが、発足前の仮訳であるため、注意が必要。実際の名前ではない。また郵便事業会社と郵便局会社は昨年合併した。

以下の年表は固有名詞がきちんと書いてあって便利。
http://www.japanpost.jp/en/corporate/changes/
http://www.japanpost.jp/corporate/changes/

P.225 主計官 budget officer
別に間違いではないが、財務省は大蔵省の時代から一貫して「budget examiner」という名称を使用しているので、examiner も挙げておいて欲しい。
*10月7日追記:この項目は第4版固有のものでなく、前の版から引き継いだものでした。

2013年8月29日木曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究6

P.274 店頭市場 the over-the-counter market; OTC
店頭市場の例を挙げ「日本では東京証券取引所(東証)に旧『ジャスダック』『マザーズ(the TSE Mothers)』、大証に『ヘラクレス(the OSE Hercules)』や『ベンチャーファンド(the OSE Venture Fund)』、名証に『セントレックス(the Centrex)』、札証に『アンビシャス(the Ambitious)』がある」としている。

札証まで出しているのだから、国内五証取の残りの一つである福証のQ-Boardもぜひ入れておいて欲しかったが、まあいい。次に挙げる項目もそうだが、書き手は店頭市場(現・ジャスダック)と新興市場を混同している。

上に例示されているのはほとんどが新興市場である。新興市場は、ベンチャー企業などが容易に上場できるよう、上場基準を特別に緩めてある市場のことで、日本では長いこと店頭市場が新興市場的な役割を果たしてきた。誤解はこの辺りから発生しているのだろうが、店頭市場は新興市場の一つにすぎず、新興市場だから必ずしも店頭市場であるわけではない。

上記引用部には、他に問題が2つある。大証のベンチャーファンドは新興市場ではなく、新興企業に投資するベンチャーファンドを上場させるための市場部門である。またジャスダックは、この辞書の執筆・発売当時は東証の組織ではなかった。後にジャスダックは大証と統合し、これがまた東証と統合した。現段階ではジャスダックは東証の一部門となっている。

P.274 新興市場 the emerging markets
「上記『店頭市場』の2004年12月以降の新しい名称で、『ジャスダック証券取引所』、東証の『マザーズ』、大証の『ヘラクレス』や『ベンチャーファンド』、名証の『セントレックス』、札証の『アンビシャス』の総称」
冒頭の「上記『店頭市場』の2004年12月以降の新しい名称で」という説明さえなければ、間違いではない。Q-Boardが入ってないのでアンビシャスの後に「など」と入れておいて欲しいが。

店頭市場は、元々証券会社の店頭での取引を組織化したものだが、2001年に市場運営業務がジャスダックに移管され、市場の名前も同じ年に「ジャスダック市場」となった。つまり「2004年12月以降の新しい名称で」というのは店頭市場の説明としても正しくない。2004年12月は次ページの項目で説明があるように、ジャスダックが証取としての免許を取得した時期である。

P.285 売買手数料 securities companies' commission(s); stock brokerage(s); broker's commission(s)
「▸1975年から自由化」
75年は米国の話。日本では98年に部分的に自由化し、翌年10月に完全自由化した。株式売買手数料の自由化は、橋本内閣による金融ビッグバンの目玉の一つ。

2013年8月21日水曜日

読書ノート:「痴呆老人」は何を見ているか 大井玄著

新潮新書。数年前に新刊で購入。ある程度必要に迫られて、この度再読。痴呆であろうがなかろうが、世界と自己を取り結ぶやりかたに大きな差はないという。

人間は実際に知覚したことを基に現実を構成しているのではなく、知覚したことを過去の経験に基づいて組み立てている。つまり「見たいものを見る」。

痴呆の人も、病棟で自分の構成した虚構の現実を生きている。研究者である阿保順子氏の著書から、ある女性患者の生活の様子を書き出している。彼女にとって病棟はかつて暮らした町で、デイルームの置き畳は「公民館」であり消火栓の側は「駅前」だ。関係のない男性入居者を「夫」とみなし、同様にこの男性を夫と誤認する別の女性入居者のことを男性の「妾」と考えている。この三人の世界観は一致しないが、女性患者は深入りせず、一方通行な関係で事足れりとしている。深入りすれば「この虚構の人間関係を壊してしまう」ことを心のどこかで理解しているかのように見えるそうだ。

研究者の久保田美法氏から引いた言葉も印象深い。
「自分が生きてきた歴史やなじみ深い人びと、ときにはご自分の名前さえ忘れて行かれる痴呆では、その言葉も、物語のような筋は失われ、断片となっていく。それはちょうど、人が生を受け、名前を与えられ、言葉を覚え、『他ならぬこの私』の人生をつくっていくのとは反対の方向にあると言えるだろう。ひとつのまとまりのあった形が解体され散らばっていく方向に、痴呆の方の言葉はある。それは文字通り、ゆっくりと『土に還っていく』自然な過程の一つとも言えるのではないだろうか」P.129

米国の介護事情にも触れている。事情を知らないので、良し悪しを判断できないが、同国では入所者の多くが短期間で亡くなるようだ。ニューヨーク州立老人介護施設を調査した2004年の論文によると、重度痴呆老人の入所時の判定で余命半年以内とされた人は1%だったが、実際は71%が半年以内に亡くなったという。いったん「重度痴呆」=「終末期患者」と判定されると、患者が苦痛を訴えない限り、医療的にはほぼ放置に近い状態であることが窺われるそうだ。

米国では「自立性尊重」という倫理意識が強いため、人が自立性を失うと、無理に生かすという方向に進みづらいのではないかと著者は分析している。

9.11のテロの直後、ブッシュ大統領が全世界に対し、米国の味方につくのかつかないのか態度表明を迫ったことを「パニックに陥った時の認知症の老人の反応と全く同一です」と述べている。このような見方は面白いが、本当にそう言ってよいのか、少し慎重な論考があってもよい気がした。

2013年8月4日日曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究5

P.207 デリバティブ、金融派生商品 derivative
P.289に同じ項目があり「derivatives (▸複数形で用いる)」と書いてある。こちらも同じ記述にすべきだ。

P.210 ■景気循環
「(略)景気とは『売買・取引などに表れた経済活動の状況』をさす。景気がよければ、需要・供給が好循環でまわるが、需要が一巡すると新規・更新需要が出てくるまで時間がかかり、その間に価格が下がり供給も減少するため景気後退に陥る。例えば、平均耐用年数が5年の洗濯機を一度買えば、故障あるいは壊れるまで5年かかるので、更新で新規需要が出てくるまで5年かかることになる」
囲み記事から抜粋。洗濯機の例示では、新規需要と更新需要を混同している。更新は既に持っている人が買い替える場合で、新規は、例えば一人暮らしを始めることになって新しく洗濯機を買う場合など。例示は更新の説明にしかなっていない。

P.211 景気判断 business outlook [judgement]
景気判断は、通常景気の現況を表すので「見通し」の意味である「outlook」は不適切。2005年の Oxford Advanced Learner's Dictionary of Current English第7版は、「outlook」を「the probable future for sb/sth」と説明している。

また「business judgement」は「経営判断」という意味。「景気判断」は「an assessment of the economy」「a view on the economy」などが可能。そもそも「景気判断」は、政府や公的機関などが景気をどう評価するかという意味。

P.213 (景気が)後退する deteriorate further
「further」の「さらに」という意味が抜けている。前の版は「(景気が)より悪くなる」という言い方の英語表現として掲載している。今回は「より悪くなる」との項目は別途立っているので、編集上のミスか。

P.214 (景気の)悪化 (business) collapse; recession
「business collapse」は「企業破綻」という意味。経済に「collapse」を使う場合は、普通「崩壊」や「破綻」を意味し、通常の景気変動で発生する景気の後退や悪化には使わない。また、細かいことを言うと「recession」は通常「景気後退」と訳すのが一般的。

好みが分かれるかもしれないが、私自身は、景気の良し悪しを分けた上で英語表現をグループとして提示する、前の版のやり方の方が良いと思う。というのも、経済に詳しくない人が景気の「悪化」「後退」「下降」「軟化」「不況」などと、それぞれ項目を立てられても違いがピンとこないだろうから。まとめて提示して意味の強弱の目安を示した方が、自分の表現したい文脈に合った言葉を探しやすいのではないだろうか。

P.218 ■実質を知るためにインフレ分を差引く
「『5パーセントの名目成長は10パーセントのインフレによる価格水増し分を差引けば、マイナス成長になる』は Allowing for 10% deflator, the nominal growth of 5% is a negative growth in real terms / Deflated for the 10% inflation, the 5% nominal growth turns into a real minus growth. のように表現される」

GDPデフレーターの計算式は「デフレーター=(名目÷実質)×100」であり、実質に対して名目は101.25とか98.83とかいった形で表現される。だから「10% deflator」というのは誤り。GDP統計ではデフレーターの変動を前年同期比や前期比で算出している。つまり「a 10% deflator change」なら可能。

また、当然ネイティブチェックがかかっているであろう例文に、ドメスチック英語学習者がこのような文句をつけるのは気が引けるが、この文の growth に不定冠詞は必要ない。さらに、このような短い文の中に、同じ語を重複して使用することは、特殊な効果を狙うのでなければ、避けるのが原則。

以上を考慮しつつ、例文を校正すると以下のようになる。
Allowing for 10% inflation, a nominal increase of 5% is negative growth in real terms / Deflated for 10% inflation, a 5% nominal rise translates into real minus growth.
   
ただし『』の日本語の訳例とするには少しギャップがあるので、以下のような例文でどうだろうか。
Adjusted for a price rise reflecting 10% inflation, a nominal gain of 5% represents negative growth.
ただし「price rise」と「inflation」にどうしても重複感が出てしまうので「rise」は「change」などにした方がいいと思う。 というか、本来日本語の「による価格水増し分(a price rise reflecting)」自体が不要。

2013年7月27日土曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究4

P.202 スミソニアン体制 the Smithonian monetary system (setup)

「米ドルの切り下げ(金の切り上げ)と各国通貨の調整(対ドル切り下げ)が行われ、日本円は16.88%も切り下げられて308円となった」

下線部はどちらも「上げ」が正しい。

P.202 プラザ合意 the Plaza accord (agreement)
「その結果、当時1ドルが240円程度であったのが、1年後には50%も切り上げられて1ドルが120円レベルになった」

変動相場体制下なので「切り上げ」ではなく「上昇」が適切だが、まあいい。プラザ合意(1985年9月)の1年後の相場は1ドル155円前後で、120円台に突入したのはもっと後である。あまりきちんとしたデータはWeb上では見つけられなかったが、以下のページにあるチャートがとりあえず参考になる。

http://www.mo-ney.net/history/plaza.html

ただし年間上昇率は50%の円高で概ね正しい。1ドル155円は1円当たり0.006451ドルであり、1ドル240円の1円当たりレートである0.004166ドルの1.55倍だからである。一方、1ドル240円から120円への円高は、1円当たり0.004166ドルから0.008333ドルへ2倍、つまり100%上昇したことになる。

まさか、240円から50%だから120円だなんて、テキトーに計算したわけじゃないですよね。

2013年7月23日火曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究3

P.194 企業物価指数 corporate goods price index; CGPI
「(略)この指数は実は1887年から作成されていたが、公表は110年後の97年からで、02年から『卸売物価指数』の代わりに表舞台に登場した」

企業物価は、卸段階と生産者段階(すなわち企業間で取引される商品全般)の物価のことで、日銀が算出している。この辞典の説明は、日銀がひた隠しにしてきた極秘の指数を突如公表することになったかのような書きっぷりになっている。当然そんな話ではなく、ただ単に100年以上にわたり公表されてきた卸売物価指数の名称を、統計の見直しの結果、変更することになったというのが事実。

やや紛らわしい書き方にはなっているが、日銀による同指数のQ&Aには以下のように書いてある。

「2-1. 企業物価指数とは、どのような物価指数ですか。
(略)企業物価指数は、日本銀行が1887年1月基準以降、継続的に作成している物価指数です(1897年に東京卸売物価指数という名称で公表を開始)」
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/pi/cgpi_2010/faq.htm/#p2-1

「2-12. 企業物価指数は、かつて公表されていた卸売物価指数とは何が違うのですか。
(略)2000年基準(2002年12月公表)から統計名称を企業物価指数へと変更しました。これは、2000年基準改定時に、価格調査段階の選定基準を一部変更した結果、卸売出荷段階を調査対象とする調査価格の比率(ウエイトベース)が2割を下回る程度に低下したことから、統計名称を実態に合わせて変更したものです」
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/pi/cgpi_2010/faq.htm/#p2-12

以下の資料18ページ目を見ていただきたい。「生産者物価指数」という名称も検討に挙がっていた。
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/notice_1999/data/ron9903b.pdf

*2014年8月30日追記:14年6月分(7月10日発表)の統計から企業物価指数の英文名はProducer Price Indexとなった。また企業向けサービス価格指数の英文名も Corporate Services Price IndexからServices Producer Price Indexとなった(6月25日発表の5月分から)。どちらも日本語の名称は変更なし。


P.173
■名目成長(nominal growth)と実質成長(real growth)
「(略)名目値からインフレ値(あるいはデフレ値)を引いたものが実質値。(略)次のように考えるとわかりやすい。
 今ここに1万円の現金があるとして、値段1万円のカバンを買うとする。来年の同じ時期までに平均で10%のインフレがあるとすると、同じカバンが1万1千円に値上がりし他の商品・サービス代も同じく上昇するので、来年の『国内総生産(GDP)』の名目値は10%上昇することになる。しかし、カバンなどの商品・サービスの価値は同じなので、GDPの実質の価値を知るにはインフレ率を差し引く必要がある」

囲み記事形式の説明。間違いというわけでもないし面倒なのでいじるまいと思っていたが、この度この辞典を読み直し、ざっと目を通した時には気がつかなかった誤りがいろいろあることに改めて気づき、怒りが増してきたので、やっぱり扱うことにする。

このカバンの例は、インフレの説明に寄与するのみで、例示の意味がない。値上がりしてもカバンなどの「価値」は変わらないので、GDPの実質の価値はインフレ率を差し引かないと分からないというのはトートロジーだ。価格とは交換価値を端的に表現するものである。値上がりしても変わらない「価値」とは一体何を指すのか。世の中にはお金で買えないものがある、すなわち priceless みたいなやつですかね。

例示は、セメントなど量で取引される物の方が分かりやすい。
1)セメント1トンを生産し1万円で売れた。→次の年は1.1トンに増産し、物価が上がり1万2千円で売れた。=名目値では20%の増収だが、物価上昇分を差し引いた実質値は10%の増加。

2)セメント1トンを生産し1万円で売れた。→次の年も1トン生産したが、物価が上がり1万2千円で売れた。=名目値では20%の増収だが、物価上昇分を差し引いた実質値では横ばい。

価格変動分を除去するということは、量の変化を直に捉えることに他ならない。

2013年7月19日金曜日

読書ノート:苦海浄土 石牟礼道子著

講談社文庫の新装版。古本屋で購入。彼女の郷土の人々が水俣病にいかに苦しんだか、詩情に満ちた迫力のある文章で記録・再構成していく。

公害は古くて新しい問題である。今読むとどうしても、汚染源のチッソが東京電力と重なって見える。賠償の範囲をいかに限定していくかなど、人間の考えることは今も昔も変わらない。残念なことに水俣の賠償問題は、ここ数年の進展にもかかわらずまだ完全には解決していない。最初の症例が出てからもう60年経つ。

解説を書いた編集者、渡辺京二氏によると、本書に登場する水俣病患者の言葉や独白は、必ずしも聞き書きではなく、膨大な取材に基づいてはいるが、石牟礼氏自身が再構成・創造した部分が多いようだ。あたかもシャーマンのように「あの人が心の中で言っていることを文字にすると、ああなるんだもの」と、患者が未だ言い表していなかった言葉を「真実」として書き連ねる。

病は、日露戦争にも出陣した屈強な元漁師にも襲いかかる。
「なんばいうか。水俣病のなんの。そげんした病気は先祖代々きいたこともなか。俺が体は今どきの軍隊のごつ、ゴミもクズも兵隊にとるときとちごうた頃に、えらばれていくさに行って、善行行賞もろうてきた体ぞ。医者どんのなんぞ見苦しゅうてかからるるか」P.67

患者の女性が漁に出ていた頃をなつかしみ、海の美しさを語る。
「春から夏になれば海の中にもいろいろ花の咲く。(略)海の水も流れよる。ふじ壺じゃの、いそぎんちゃくじゃの、海松じゃの、水のそろそろと流れてゆく先ざきに、いっぱい花をつけてゆれよるるよ」P.167

彼女は不自由になった体を嘆き、夫と漁に出たいと願う。
「人間な死ねばまた人間に生まれてくっとじゃろか。うちゃやっぱり、ほかのもんに生まれ替わらず、人間に生まれ変ってきたがよか。うちゃもういっぺん、じいちゃんと船で海にゆこうごたる。うちがワキ櫓ば漕いで、じいちゃんがトモ櫓ば漕いで二丁櫓で」P.185

チッソが地元にとって欠かすことのできない存在であるがゆえに、患者と他の住民の利害が相反し、両者が分断されてゆく。
「『小父さん、もう、もう、銭は、銭は一銭も要らん!今まで、市民のため、会社のため、水俣病はいわん、と、こらえて、きたばってん、もう、もう、市民の世論に殺される!(略)』『何ばいうか!いまから会社と補償交渉はじめる矢先に、なんばいうか。だれがなんちゅうたか』『みんないわす。会社が潰るる、あんたたちが居るおかげで水俣市は潰るる、そんときは銭ば貸してはいよ、二千万円取るちゅう話じゃがと。殺さるるばい、今度こそ、小父さん』」P.344

公害は気づかぬ間に拡大し、取り返しのつかない事態になって初めて認識されるというような現れ方をするようだ。再びこのような事態が起きた時に、私たちはきちんと対処できるだろうか?

2013年7月13日土曜日

読書ノート:Albion Peter Ackroyd著

Vintage社の出版。10年ほど前に新刊で購入。一度挫折後、昨年秋から再挑戦し、ようやく読み終わった。Albionは「白い大地」という意味で、南部海岸の白亜の絶壁にちなんだイギリスの古称。イギリス的なるものの起源と特徴を、文学、芸術、工芸、言語、歴史、風土を手掛かりに縦横無尽に論じつくす。

英国は日本と同様、大陸から離れてはいるが、交流が困難なほど遠くでもない。本書を読むと、大陸や異民族の言葉や文化を柔軟に吸収し、独自に発展させていったことや、工芸など細かい細工が好まれることなど、日本と共通点が多いように思えてくる。大げさな表現を好まないことや、感情を露わにしたがらないことも共通点と言えるだろうか。

著者は過去からの継続性や過去と現在の融合を重視する。Vaughan Williams という作曲家が、フォークソングに強い興味を持つに至ったのは、1900年代の田舎で現地の老人に昔から伝わる歌を歌ってもらったことがきっかけだったというエピソードを紹介している。Williams は、初めて聞いた曲にもかかわらず、あたかも子供の頃から知っているかのような親近感を感じたそうだ。

これについて著者は、まるで、現地の風土や風景がこの作曲家の感受性に影響を与え、聞いたことがある曲のように感じさせたかのようだと評する。さらに展開して以下のように述べる。

「So there are many striking continuities in English culture, ranging from the presence of alliteration in English native poetry over the last two thousand years to the shape and size of the ordinary English house. But the most powerful impulse can be found in what I have called the territorial imperative, by means of which a local area can influence or guide all those who inhabit it.」P.448

頭韻や家屋の形状など、長年にわたり文化的に継続してきたものは多いが、土地そのものに人を動かす強い力が内在する(かのように感じられる)と。本書ではgenius loci(土地の守護神、土地柄)という言葉が多用されているが、著者は、イギリスの作家、音楽家、芸術家は、このような土地に関する感覚を強く意識してきたと説明する。

「(I)n England the reverence for the past and the affinity with the natural landscape join together in a mutual embrace. ... It is the landscape and the dreamscape. It encourages a sense of longing and belonging. It is Albion.」P.449

イギリスでは、過去を尊ぶことと、ありのままの風景を愛することは一体となる。この地は、景色と夢の舞台であり、何かを求める気持ちと今この場所に存在することへの安心感を強める力がある。このように主張して本書を結ぶ。

我が国ではどうだろう?里山、鎌倉、奈良・京都などの風景を、歴史に思いを馳せながら眺めてみると、似たような感覚が得られるだろうか?

この著者は「English Music」(Penguin社、92年)以来のファン。「English Music」は、「Albion」で展開している論をそのまま小説にしたような作品で、心霊術師を父に持つ少年が、類まれなる共感・交霊能力でイギリス文学作品や芸術品の世界に入り込み、現実と行きつ戻りつしながら成長していく(何やら分かりづらくてすみません)物語。ルイスキャロルから、コナンドイル、ディケンズからチョーサーに至るまで、文体模写を駆使しながら、少年の現実世界での葛藤と没入した作品の世界とを関連づけしつつ展開していく。読む順番は「English Music」→「Albion」→「English Music」がおすすめ。

余り「Albion」の本筋とは関係ないが、英国の植民地経営についてサラッと論述できるところは、戦勝国ならではの特徴か。日本では良かれ悪しかれ、なかなかそうはいかない。

2013年7月5日金曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究2

P.205 (外国)為替市場介入
不胎化介入を「unfertilized intervention」としているが、「sterilized intervention」が正しい。非不胎化は「unsterilized」など。不胎化は、介入によって副次的に起こる国内の通貨量の変化を相殺するために行う金融調節のこと。有斐閣経済辞典第3版などによると、金本位制の頃から存在する金融調節だそうだ。

P.214 景気の踊り場(business)soft patch
「soft patch」を、元来は海事用語で「(船を)応急修理するための当て金および帆布」を指すと説明している。確かにそうかもしれないが、ここは素直に「soft=(景気などが)軟調な」「patch=時期」と言えばいいのではないだろうか。Oxford Dictionary of Current English第2版には「period of a specified, esp. unpleasant, kind」という語義があり「went through a bad patch」との用例が挙がっている。「soft patch」が「地面のぬかるんだ一画」を意味することによって比喩的に景気の軟調を示す、という説明をする人もいるので、やや自信がないけど。

P.215 有効需要 effective demand
「供給に見合い、すぐに出荷できる(有効な)需要」と説明しているが、当然、需要は出荷できない。ネットの用語集を見ると「貨幣的支出の裏付けのある需要」というのが一般的な定義のようだ。

P.219 財政制度審議会 Financial System Council
正しくは「財政制度等審議会」で、英文名は「Fiscal System Council」。前の版では、少なくとも英文名は正しいものを載せている。

今まで見てきた問題点は、前のエントリーも含め、全て第4版で追加された記述に関わるものである。細かいのでいちいち触れていないが、前の版の説明や例文を微妙に書き換えている部分が結構あって、中にはなぜわざわざ書き換える必要があったのか理解に苦しむものもあった。

誤りはまだまだたくさんある。続きはまた今度。

2013年7月2日火曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究1

いささか旧聞になるが、2007年に小学館が「トレンド日米表現辞典第4版」を出版した。現代日本に関する文章を英語で書く際に大変重宝していた辞典の新しい版なので、出たらすぐに買った。予告広告を見て、発売を心待ちにした日々を思い出す。

この版から編集主幹という肩書の人が加わり、執筆者が一人減った。内容がどう変わったのかと最初の数十ページをぱらぱら見ると、あからさまな間違いやおかしな記述が散見された。金を返せと言うつもりはないが、悔しいので主な間違いを列挙していくシリーズを始めようと思う。対象は手元にある第4版第1刷。こないだ某大手書店チェーンの店で見たら、まだ第1刷が置いてあったぞ。

P.178 国民総所得、GNP
「GDPに海外生産を加えたもの。この指標は戦後50年近く使われてきたが、2000年度にGDPを使っている国際標準に合わないとの理由でGDPに代わり、GNPもGNI(Gross National Income=国民総所得)に呼び方を変えた」

「海外生産」は大まかすぎるので最初の文もどうかと思うが、「加えた」を「加味した」と読みかえればそれほど問題はなさそうなので、スキップ。

次の文。経済企画庁(現・内閣府)がGDPをGNPに代わる代表指標としたのは93年で「2000年度に…代わり」というのは間違い。2000年10月の統計見直しの際にGNPという概念が廃止されたのは事実だが、その頃にはとっくにGDPが経済成長を測る主要指標として定着していた。新聞を読んでいないのだろうか?以下は94年の経済白書の抜粋。前年の経済を回顧する際にGDPを用いている。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/keizaiwp/wp-je94/wp-je94-00101.html

P.179 GNPギャップ
本書出版のずいぶん前にGNPがGDPに取って代わられたと説明した直後に、このような項目を立てる意味が分からない。GDPギャップでよい。小学館、きちんと校閲を入れているのだろうか。

読書ノート:神の棄てた裸体 石井光太著

新潮文庫版を古本屋で購入。東南アジアから中東まで、イスラム圏での性のありかたを売春婦を中心に密着取材。

この著者の本は、東日本大震災の被災地の安置所での様子を描き、映画にもなった「遺体」(新潮社)で初めて読んだ。被災地の別のエピソードを載せた「津波の墓標」(徳間書店)も含め新刊で読んだので、今回は古本だが許してほしい。

この著者は、目をそむけたくなる悲惨なことや人間の醜いところを、しっかり目を開いて観察できる胆力のある人なのだろう。本書ではスラムの奥に入り込み、売春でもしなければ生きていけない境遇の人々に寄りそいながら話を聞いていく。

ヨルダンで出会ったイラク出身の女性は、戦争のトラウマから爆発音などの幻聴に悩まされ、男と寝ていれば幻聴が聞こえず安心できることが分かったため、自ら売春婦になったという。またバングラデシュの少年は自分を買う男たちを「あの人たちだって、苦しんでいるんだよ。自分が変なことも、痛い思いをさせてるってこともわかってる」と憐れむ。

戦乱や貧困のため男が少なくなった地域で、一夫多妻制が女性を貧困から救済するための装置として機能している面があることは、恥ずかしながら本書で初めて知った。また家の体面を汚す行為をする家族を自ら殺害する名誉殺人についても聞き取りがあり、経験した家族の複雑な気持ちが垣間見える。

今後もこの作家を注目していきたい。

2013年6月28日金曜日

本日の引用:茶の本 岡倉覚三(天心)著

「翻訳は常に叛逆であって、明朝の一作家の言のごとく、よくいったところでただ錦の裏を見るに過ぎぬ。縦横の糸は皆あるが、色彩、意匠の精妙は見られない」岩波文庫版40ページ

にもかかわらず、日本語訳で読んでしまった。古本屋で安かったもので…。いつか原書の「The Book of Tea」も目を通せたらいいな。
本書に関する感想は余りない。茶が道教、禅、生け花と関連していることや芸術に連なる道であることはある程度理解した。この本を読んで反省したのは、ずいぶん長い間、知識を得るための読書に偏りすぎたためか、このような時を超越する内容の本をゆっくり味わいながら読む心構えができなかったことだ。

2013年6月26日水曜日

読書ノート:絶対音感 最相葉月著

小学館文庫版を古本屋で購入。絶対音感とは何かを追究することで、音楽や人間の認知機能の神秘について話が深まっていく。

身近にピアノを習っている人はたくさんいたが、絶対音感があるという人には一人しか会ったことがない。当時は、音の名前やコードがたちどころに分かってすごいなと思うぐらいで深く考えなかったが、本書によると、能力が研ぎすまされている余り、音楽が音楽として楽しめなかったり、楽団や曲により音の高さが微妙に違うと適応するのに苦労したりと、問題に直面するケースが結構あるそうで驚いた。他にも、音楽教育と創造性の関係とか、交響曲の指揮者が音の洪水の中からどのように特定の楽器の音を聞き分け、演奏をまとめあげていくのかなど興味深い話題がいくつもあった。

本筋からやや外れるが、印象に残ったのが「ダイナミックなパターンの中にこそ情報が含まれる」という一節。例えば「aia」という発音の一連の音声を細分化しても「ae」といった混じった音が聞こえるのみで、明確な「a」や「i」の音は聞こえないそうだ。物質もどんどん分割していくと、我々が身近に知っている物質とは異なった姿が現れてくる。素粒子の単位になると具体的な様子を想像することすら難しい。対象を全体で捉えるのか、パーツに分けて考えるのか、思想史上、繰り返し現れるテーマながら、改めて興味深く感じた。

この本のように深く追究していくスタイルっていいな。同じ著者の「青いバラ」(小学館)も読んでみようと思う。いや、やはり同じ著者による星新一の伝記(新潮文庫)を上巻しか読んでないから、そちらが先かな。

2013年6月23日日曜日

維新

維新とは「政権の交代に伴い、政治上の諸制度が全て改革されること」(新明解国語辞典第4版)であり、「改革」がその意味の根幹となる。ところで、明治維新は通常「Meiji Restoration」と英訳される。政治体制の刷新の他に、天皇制への復古(Restoration)という側面があったためである。
「Meiji Restoration」に倣ってか、日本維新の会の英文名称は「Japan Restoration Party」である。日本語に訳し直すと「日本復古の党」などとなり、維新とは程遠い印象だ。まあ共同代表やその他幹部の言動を考えると、これはこれでちょうどいい気もするが…
ただし、日英の名称でちぐはぐになっていることは間違いない。三井住友なのに英文にするとSumitomo Mitsui となる金融機関や建設会社とか、合併してタカラトミーとなった会社が、英文名では Takara のかけらもなく Tomy Co., Ltd. になっていたりするみたいな。

2013年6月22日土曜日

黒田総裁おまけ

いささか旧聞に属するが、世界の大手民間金融機関で構成する国際金融協会(IIF)という団体が、黒田日銀総裁の就任直前の3月初旬に、以下のようなプレスリリースを出した。IIFの発行する月報を紹介するもので、同月のトピックは、世界的に中央銀行が供給する流動性に対する依存度が高いといったものだった。
http://www.iif.com/press/press+414.php

各国の状況について説明があり、日本の部分を見ると、







この間違い、よそでも起こりそうな気が…

2013年6月18日火曜日

黒田日銀総裁の英語

就任直後に異次元緩和を成し遂げた黒田総裁。先月、日銀金融研究所主催の国際会議で、英語で開会の挨拶をした。元々財務省の通貨マフィアで、その後アジア開発銀行の総裁を務めただけあって、英語は堪能だという。原稿も自分で書いたのだろうか。下の原稿通り読み上げたのかは分からないが、気になる点があったのでメモ。

I believe that the global financial community must, in its efforts to rebuild the global financial system, come to terms with two issues: capital controls and financial regulation and supervision.(3ページ、III.の2パラめ)
http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2013/data/ko130529a.pdf

日銀による邦訳は以下の通り。
「国際金融界では、国際金融システムの再建に向けて、資本移動規制と、金融規制・金融機関監督という、2つの課題を検討していく必要があると思います」
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130529a.pdf

「come to terms」は、例えば20年以上前の辞書で恐縮だが Oxford Dictionary of Current English 第2版なら「reconcile oneself to (a difficulty)」と説明があり、困難や不快なことに対し「受け入れる」「折り合いをつける」という意味で、多くの場合、変えることができないことについて使う。つまり、この文脈では不適切。別に「検討」だから機械的に「consider」や「examine」でなければいけないとは思わないが、「tackle」とか「deal with」ぐらいでよかったのでは。

Today, the global economy has not yet completely shook off the effects of the global financial crisis,... (4ページめ、結びの言葉)
shake の過去分詞が shook になってます。読み上げるときに気がついたかもしれませんが。日銀の中の人、総裁の英文原稿も、ネイティブチェックをしっかりお願いいたします。

2013年6月12日水曜日

自虐史観


以前から「自虐史観」は英語でどのように表現するのがいいのか悩んでいたところ、いささか旧聞になるが、先月公表された米国議会調査局の「Japan-U.S. Relations: Issues for Congress」という報告に言及があった。安倍首相を「強硬なナショナリスト」とし、歴史問題が米国の国益を損ねかねない状況に発展する懸念を示した報告である。
http://www.fas.org/sgp/crs/row/RL33436.pdf

この報告の9ページ目に以下の文があった。
Abe's appointment of Shimomura appears to signal his intent to follow through on the LDP's pre-election advocacy of reducing "self-torturing views of history" in education...
「安倍が下村(文部科学相)を起用したのは、教育現場の『自虐史観』を弱めるべきとの自民党の選挙前の主張を実行する意図があるためではないかとみられている」

引用符付きながら、self-torturingという語を使っている。駐日米国大使館や国務省でもこの表現を使っているのだろうか。self tortureが英語圏でどういうイメージなのか、参考のためgoogleで画像検索してみたら、中世の拷問用具(実物を見たければ明治大学の刑事博物館へ)とかインドの荒行とかその他気持ち悪い画像だらけだった。大丈夫だろうか。下のような画像もあったけど。



ちなみに毎日新聞の英文版では「a masochistic view of history」とあった。こちらは画像検索しなくても大体わかります。orz
http://mainichi.jp/english/english/perspectives/news/20121208p2a00m0na004000c.html