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2013年7月23日火曜日

トレンド日米表現辞典第4版の研究3

P.194 企業物価指数 corporate goods price index; CGPI
「(略)この指数は実は1887年から作成されていたが、公表は110年後の97年からで、02年から『卸売物価指数』の代わりに表舞台に登場した」

企業物価は、卸段階と生産者段階(すなわち企業間で取引される商品全般)の物価のことで、日銀が算出している。この辞典の説明は、日銀がひた隠しにしてきた極秘の指数を突如公表することになったかのような書きっぷりになっている。当然そんな話ではなく、ただ単に100年以上にわたり公表されてきた卸売物価指数の名称を、統計の見直しの結果、変更することになったというのが事実。

やや紛らわしい書き方にはなっているが、日銀による同指数のQ&Aには以下のように書いてある。

「2-1. 企業物価指数とは、どのような物価指数ですか。
(略)企業物価指数は、日本銀行が1887年1月基準以降、継続的に作成している物価指数です(1897年に東京卸売物価指数という名称で公表を開始)」
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/pi/cgpi_2010/faq.htm/#p2-1

「2-12. 企業物価指数は、かつて公表されていた卸売物価指数とは何が違うのですか。
(略)2000年基準(2002年12月公表)から統計名称を企業物価指数へと変更しました。これは、2000年基準改定時に、価格調査段階の選定基準を一部変更した結果、卸売出荷段階を調査対象とする調査価格の比率(ウエイトベース)が2割を下回る程度に低下したことから、統計名称を実態に合わせて変更したものです」
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/pi/cgpi_2010/faq.htm/#p2-12

以下の資料18ページ目を見ていただきたい。「生産者物価指数」という名称も検討に挙がっていた。
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/notice_1999/data/ron9903b.pdf

*2014年8月30日追記:14年6月分(7月10日発表)の統計から企業物価指数の英文名はProducer Price Indexとなった。また企業向けサービス価格指数の英文名も Corporate Services Price IndexからServices Producer Price Indexとなった(6月25日発表の5月分から)。どちらも日本語の名称は変更なし。


P.173
■名目成長(nominal growth)と実質成長(real growth)
「(略)名目値からインフレ値(あるいはデフレ値)を引いたものが実質値。(略)次のように考えるとわかりやすい。
 今ここに1万円の現金があるとして、値段1万円のカバンを買うとする。来年の同じ時期までに平均で10%のインフレがあるとすると、同じカバンが1万1千円に値上がりし他の商品・サービス代も同じく上昇するので、来年の『国内総生産(GDP)』の名目値は10%上昇することになる。しかし、カバンなどの商品・サービスの価値は同じなので、GDPの実質の価値を知るにはインフレ率を差し引く必要がある」

囲み記事形式の説明。間違いというわけでもないし面倒なのでいじるまいと思っていたが、この度この辞典を読み直し、ざっと目を通した時には気がつかなかった誤りがいろいろあることに改めて気づき、怒りが増してきたので、やっぱり扱うことにする。

このカバンの例は、インフレの説明に寄与するのみで、例示の意味がない。値上がりしてもカバンなどの「価値」は変わらないので、GDPの実質の価値はインフレ率を差し引かないと分からないというのはトートロジーだ。価格とは交換価値を端的に表現するものである。値上がりしても変わらない「価値」とは一体何を指すのか。世の中にはお金で買えないものがある、すなわち priceless みたいなやつですかね。

例示は、セメントなど量で取引される物の方が分かりやすい。
1)セメント1トンを生産し1万円で売れた。→次の年は1.1トンに増産し、物価が上がり1万2千円で売れた。=名目値では20%の増収だが、物価上昇分を差し引いた実質値は10%の増加。

2)セメント1トンを生産し1万円で売れた。→次の年も1トン生産したが、物価が上がり1万2千円で売れた。=名目値では20%の増収だが、物価上昇分を差し引いた実質値では横ばい。

価格変動分を除去するということは、量の変化を直に捉えることに他ならない。

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