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2013年7月2日火曜日

読書ノート:神の棄てた裸体 石井光太著

新潮文庫版を古本屋で購入。東南アジアから中東まで、イスラム圏での性のありかたを売春婦を中心に密着取材。

この著者の本は、東日本大震災の被災地の安置所での様子を描き、映画にもなった「遺体」(新潮社)で初めて読んだ。被災地の別のエピソードを載せた「津波の墓標」(徳間書店)も含め新刊で読んだので、今回は古本だが許してほしい。

この著者は、目をそむけたくなる悲惨なことや人間の醜いところを、しっかり目を開いて観察できる胆力のある人なのだろう。本書ではスラムの奥に入り込み、売春でもしなければ生きていけない境遇の人々に寄りそいながら話を聞いていく。

ヨルダンで出会ったイラク出身の女性は、戦争のトラウマから爆発音などの幻聴に悩まされ、男と寝ていれば幻聴が聞こえず安心できることが分かったため、自ら売春婦になったという。またバングラデシュの少年は自分を買う男たちを「あの人たちだって、苦しんでいるんだよ。自分が変なことも、痛い思いをさせてるってこともわかってる」と憐れむ。

戦乱や貧困のため男が少なくなった地域で、一夫多妻制が女性を貧困から救済するための装置として機能している面があることは、恥ずかしながら本書で初めて知った。また家の体面を汚す行為をする家族を自ら殺害する名誉殺人についても聞き取りがあり、経験した家族の複雑な気持ちが垣間見える。

今後もこの作家を注目していきたい。

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