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2013年7月13日土曜日

読書ノート:Albion Peter Ackroyd著

Vintage社の出版。10年ほど前に新刊で購入。一度挫折後、昨年秋から再挑戦し、ようやく読み終わった。Albionは「白い大地」という意味で、南部海岸の白亜の絶壁にちなんだイギリスの古称。イギリス的なるものの起源と特徴を、文学、芸術、工芸、言語、歴史、風土を手掛かりに縦横無尽に論じつくす。

英国は日本と同様、大陸から離れてはいるが、交流が困難なほど遠くでもない。本書を読むと、大陸や異民族の言葉や文化を柔軟に吸収し、独自に発展させていったことや、工芸など細かい細工が好まれることなど、日本と共通点が多いように思えてくる。大げさな表現を好まないことや、感情を露わにしたがらないことも共通点と言えるだろうか。

著者は過去からの継続性や過去と現在の融合を重視する。Vaughan Williams という作曲家が、フォークソングに強い興味を持つに至ったのは、1900年代の田舎で現地の老人に昔から伝わる歌を歌ってもらったことがきっかけだったというエピソードを紹介している。Williams は、初めて聞いた曲にもかかわらず、あたかも子供の頃から知っているかのような親近感を感じたそうだ。

これについて著者は、まるで、現地の風土や風景がこの作曲家の感受性に影響を与え、聞いたことがある曲のように感じさせたかのようだと評する。さらに展開して以下のように述べる。

「So there are many striking continuities in English culture, ranging from the presence of alliteration in English native poetry over the last two thousand years to the shape and size of the ordinary English house. But the most powerful impulse can be found in what I have called the territorial imperative, by means of which a local area can influence or guide all those who inhabit it.」P.448

頭韻や家屋の形状など、長年にわたり文化的に継続してきたものは多いが、土地そのものに人を動かす強い力が内在する(かのように感じられる)と。本書ではgenius loci(土地の守護神、土地柄)という言葉が多用されているが、著者は、イギリスの作家、音楽家、芸術家は、このような土地に関する感覚を強く意識してきたと説明する。

「(I)n England the reverence for the past and the affinity with the natural landscape join together in a mutual embrace. ... It is the landscape and the dreamscape. It encourages a sense of longing and belonging. It is Albion.」P.449

イギリスでは、過去を尊ぶことと、ありのままの風景を愛することは一体となる。この地は、景色と夢の舞台であり、何かを求める気持ちと今この場所に存在することへの安心感を強める力がある。このように主張して本書を結ぶ。

我が国ではどうだろう?里山、鎌倉、奈良・京都などの風景を、歴史に思いを馳せながら眺めてみると、似たような感覚が得られるだろうか?

この著者は「English Music」(Penguin社、92年)以来のファン。「English Music」は、「Albion」で展開している論をそのまま小説にしたような作品で、心霊術師を父に持つ少年が、類まれなる共感・交霊能力でイギリス文学作品や芸術品の世界に入り込み、現実と行きつ戻りつしながら成長していく(何やら分かりづらくてすみません)物語。ルイスキャロルから、コナンドイル、ディケンズからチョーサーに至るまで、文体模写を駆使しながら、少年の現実世界での葛藤と没入した作品の世界とを関連づけしつつ展開していく。読む順番は「English Music」→「Albion」→「English Music」がおすすめ。

余り「Albion」の本筋とは関係ないが、英国の植民地経営についてサラッと論述できるところは、戦勝国ならではの特徴か。日本では良かれ悪しかれ、なかなかそうはいかない。

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